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ヤクソク

 

誰かに抱き締められるのなんて子供の頃以来で、ある程度成長してからは専ら抱き締める側だったから、それは何とも奇妙な感覚だった。
決して数は多くないけれど自分と付き合っていた彼女たちは、こんな感覚を味わっていたのだろうか。
耳元で囁かれた言葉を他人事の様に聞き流しながら、アッテンボローはぼんやりとそんな事を考えていた。

聴覚を揺らす声が言葉として認識されるまでに時間を要し、それが愛の囁きだと理解するまでに更に数秒必要だった。
そしてそこで初めて、アッテンボローは自分が今どういう状況にあるのかを理解したのだ。不覚にも。

「お…おいっ」
漸く身動ぎしたアッテンボローに、反応が遅いですよと苦笑混じりの声が返る。
「何のつもりだポプラン!」
動揺の色が隠せないまま声を上げると自由を奪っていた腕が緩み、緑色の瞳が正面からアッテンボローを捕らえた。
力こそ抜けているが、彼の腕はまだアッテンボローを抱え込んだままだ。
「何のってつもり…っていうか、なかなか振り向いてくれない愛しい人と思いがけず二人きりになったりしたものだから、うっかり暴走してみたんですけれど」
「するなっ」
そもそもいきなりオフィスにやってくるなり、相談があるとか嘯いてラオや副官を追い出したのはこの男なのだ。
思いがけずなんて、図々しいにも程がある。
「酷いなあ。別に嘘ついた訳じゃないでしょーが。あっちが勝手に出て行っただけで」
アッテンボローはテーブルの上の資料にチラリと視線を遣った。
確かに最初は仕事の話をしていたのだ。
向かいのソファに座っていたポプランがいつの間にか隣に来ていて、気付いたらこんな事になっていた訳で、アッテンボローにしてみれば意図的だったとしか思えない。
「だけど提督もちょっと危険意識が足りないですよ」
「何がだ」
「おれはちゃんと意思表示してましたよ。そんな人間と不用意に二人きりになるなんて」
「だからそれは…」
反論しかけてアッテンボローは口を噤んだ。この状況では何を言っても仕方が無い。
ヘラリ、とポプランが笑みを浮かべた。
「ま、今回の事は良い教訓だったという事で」
「へ?」
不意に視界が回転する。
これはもしかして押し倒されたという状況なのではなかろうか、と考えてアッテンボローは血の気が引くのを感じた。
「ば…馬鹿止めろっ!ここをどこだと思ってるんだ!!時間と場所を考えろ!!」
辛うじて上官としての態度らしきものを取ったのが精一杯の虚勢だった。
だが意外にもポプランはあっさりとアッテンボローを解放して身を起こした。
「……つまり勤務時間外で、ここじゃなければ良いんですね?」
「へ…?」
ぱちくりと瞬きをするアッテンボローにニコリと笑いかけ、ポプランは落ちた埃を払って自分の頭に乗せた。
「それじゃ、あがりの時間になったら迎えに来ます」
「って、おい…」
半身を起こし唖然としているアッテンボローにもう一度笑いかけると、ポプランは約束ですよと言ってオフィスを出て行った。

 

数分後オフィスに戻ったラオが見たのは、ソファーに座ったまま呆然としている上官の姿だったという。

 



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でもってアッテンは律儀に待ってたりするんです。

某Tサンのぽぷあてちっくなネタに煽られて、イケイケ気分だったので勢いで書いたとです。
もうもうー。こんな事してる場合じゃないのにぃー!!(でも楽しい)

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